「だから、アンタ気ィ弱そうだし、一人で行かないほうがイイよ。
他の人に任せちゃえば?」


「そうデスねぇ。」


「そうそう。
触らぬ神に祟りナシってね。
賢く生きなきゃ。」


中年女性は馴れ馴れしく男の肩を叩いた。

さっきよりもさらに、親しみを感じる。
それは、同属意識がもたらすものだったのかも知れない。

あたかも、共犯心理のように…

何度もペコペコと頭を下げる男に軽く手を振って、女性はその場を後にする。

新しい仲間を見つけたような。
その仲間に親切にしたような。

ちょっとイイ気分で、鼻歌を歌いながら帰途を辿る。

だから、中年女性は気づかなかった。

触れた男の肩が、外見からは想像もできないほど逞しかったことを。

微笑みを浮かべたままの男が低く漏らした、バカにしたような呟きを。


「確かに賢い生き方かもな。
だが自分が虐げられる立場になった時、同じコト言って笑ってられンのか?」


手荒い暴力と無関心という名の檻によって、いずれその子は殺される。

猫背の男は笑う仮面を顔に貼りつけたまま、ボロアパートを見上げた。