いつもなら、放っておく。
自分に関係ないのだから。
賢く生きていくには、ドライが一番。

だが…


「アンタ、ひょっとして二階の角部屋に用があるの?」


中年女性は、ひ弱そうな後ろ姿に声を掛けて引き留めた。


「そーですケドぉ?」


男がニコニコと振り返る。

当然だ。
住人がいるのはその部屋だけ。

この糸目のせいだろうか。
緊張感の欠片もない雰囲気のせいだろうか。

初めて会ったにも関わらず、中年女性は自分でも不思議に思うほど男に親近感を抱いていた。


「アソコは… やめとけば?」


だからつい忠告してしまった。
関わり合うのは面倒なのに…


「えー?
もう引っ越されてますぅ?」


「違うわよ。

アソコ、厄介な人が住んでンのよ。
なんて言うか…
トラブルメーカーみたいな?」


「トラブル?」


女性は首を傾げる男に近づき、手を口元に当てて内緒話をするように声を落とした。