任意の出頭要請には、もちろん応じない。
別件を捻り出して引っ張ってきても、大金を積めば黒を白に変えてしまう敏腕弁護士がスっ飛んでくる。

拉致現場付近の監視カメラはことごとく故障中。
目撃者はことごとく口を噤む。

恐るべし金の威力。
恐るべし権力の脅迫。

もう現行犯逮捕しか、犯人を捕らえるすべはない。

だが、ヤツは尻尾を出さない…

関係者は皆、頭を抱えていた。

そんな中、初めて生きた被害者が見つかった。

明け方、ゴミ収集車が来る前にめぼしいモノを回収しようと、ダストコンテナを漁っていたホームレスが発見したのだ。

だが連絡を受け、緊急車両が大急ぎで駆けつけた時には既に…

被害者は、帰らぬ人となっていた。

まだ二十歳で敬虔なクリスチャンだったというその女性の亡骸は、今までの被害者同様、目を背けたくなるほど惨たらしいものだった。

発見されるまで息があったことが奇跡。
彼女はよく闘った。

だけど、もう少し。
後、少しだけ。

生きていてくれれば、犯人に繋がるナニカを‥‥‥

いや、それも望み薄だ。

死に際の証言など、信憑性が低いと一蹴されて終わるだろう。

犯人はほぼ確定的なのに、先が全く見えない。

まるで、出口のない迷路だ…