コンテナの中から、腐臭と共に小さな声が上がった。

それは、男の名。

マリーは鼻に詰めていたティッシュを取った。

鼻血はもう止まっている。


「任せろ。
ソイツは俺が逃がさねぇ。
おまえは安心して、自分のためだけに祈れ。」


ティッシュをダストコンテナには入れず、コートのポケットに突っ込んだマリーは、もう一度無表情に焦げ人間を見下ろした。


「缶、当てちまったンなら、悪かったな。」


掛けた言葉は、ただそれだけ。

慰めも。
労りも。
別れの言葉さえ、ない。

マリーは消えた。

焦げ人間はゴミ溜めに取り残された。

冷たい静寂の中、途切れがちな祈りの声だけが聞く者もないまま微かに響く。

救いの手はない。
あったとしても、助かる見込みはまるでない。

それでも焦げ人間は亀裂の両端をほんの少しだけ持ち上げて、祈りを捧げ続けた。

自らのためだけの祈りを。

焼かれて、涸れきって、もう出ないはずの雫で、焦げ人間が焦げていない頃は目であったであろう場所は光っていた。