痛々しい顔を歪めるように笑った子供は、袋の中から二枚のティッシュを引き出し、男の鼻先に突き出した。

鋭い視線を子供の顔から逸らすことなく、鼻血男はソレを受け取る。


「ありがと、な。
…なぁ、おまえ」


「ゴラァァァァァ!!
ドコ行きやがったぁぁぁ!!」


鼻血男の言葉をかき消すように辺りに響き渡る怒号。

子供の細い身体がビクリと跳ね上がり、不自然に震えだした。


「ハイ…
ハイ! 今、帰りマス!」


「ちょ、おまえ…」


立ち上がった子供の光が失せた瞳には、もう鼻血男など映っていない。

よろめきながら、片足を引きずりながら、怒声に導かれるように歩き出す。

少し先にある古い木造アパートに入っていく頼りなげな背中を、鼻血男は見送った。


「このガキー!!
ドコに隠れてやがったー!!」


「ごめんなさい、お父さん!
ごめんなさい!」


こんな夜中に、こんなに叫び声がしているのに、様子を見に出てくる住民もいない。

もう興味をなくしたように夜空を仰いだ鼻血男…
マリーは、丸めたティッシュを鼻に詰めた。