鼻血だ…

マリーはアパートに帰るべく、真夜中のダウンタウンを歩いていた。
鼻にティッシュを詰めて。

もう…
ムシャクシャする。

今回の依頼人は、心からメンドクサかった。

金の支払いを堂々と渋るわ。
堂々と渋ったわりにビビるわ。
ビビった挙げ句、殺そうとするわ。
結果、車を爆発させやがるわ…

キッチリ、カタに嵌めてきたケドネ?

南無阿弥陀仏。

全く…
余計な手間かけさせやがって。

おまけに鼻血ときたモンだ。

ほんとムシャクシャする。

マリーは道路に転がっていた空き缶を、腹立ち紛れに蹴っ飛ばした。
缶は美しい弧を描き、路地の奥にある巨大なダストコンテナに吸い込まれていく。

俺、ナイッシュー!

コンっ


「ぅ‥‥‥」


‥‥‥‥‥ハイ?

『コン』は、缶だ。
間違いない。

じゃ、今の呻き声はナニ?

最近の缶は喋ンの?
生きてンの?
アメリカンドリームなの?

マリーは生きた缶を捕獲しようと、ワクワクしながらダストコンテナに向かった。