「菜々。」


サングラスを外してシャツの胸ポケットに仕舞いながら、マリーが言った。


「おまえ、得体の知れないヤバそーな男には惚れンなよ。」


「え…」


「面白みはねぇが、堅物すぎるくらいのヤツが安全牌だ。
公務員とか、いいンじゃねーか?」


…考え方が昭和だよ。

不意に俯き、ナニカ小さく呟く菜々。

聞こえない。

こんなに静かな夜なのに。
こんなに近くにいるのに。

顔を上げた菜々は、マリーを見上げて微笑んだ。

今まで一度も見たことのない種類の笑顔に胸を突かれたマリーが、目を見開く。


「え… な… おま…」


「おやすみなさい、マリーさん。」


「‥‥‥‥‥おぅ。」


菜々が視界から消えても、マリーは立ち竦んだまま動けなかった。

ナニ?あの顔。
やけに艶っぽくて…

暗闇マジック?
あ、電気ついてたわ。

てかあのコ、なんてったの?