腰を払いながら立ち上がった少女は、顔を顰めるマリーに笑いかけた。


「じゃ、お世話になりついでにコレも貰っとく。
色々ありがとう。
私、ハゲデブオヤジじゃなく、お兄ちゃんに声を掛けて本当に良かった。」


マリーの眉がピクリと動く。

無意識か?

それとも…
気づいたか?


「サングラス取って…
は、くれないンでショ?
じゃ、せめて名前教えてよ。
私、榊 真梨香(サカキ マリカ)。」


泣いていたせいで目も鼻も赤いが、それでも聡明そうな妹の顔をマリーは見下ろした。

気づいてないなら、そのままナニも知らずにいろ。

気づいていても、ナニも知らないフリをしろ。

知らないほうがいいコトも、この世にはある。
利口だった俺の可愛い妹なら、わかるだろ?

おまえの兄貴は、おまえを騙していたクズよりもっと、クズになったのだから。

命の重さもわからない…
いや、わかっていながら鑑みない、殺し屋になったのだから。

だからマリーは、平然と嘘をつく。

いつも通り、表情を変えることなく。


「タナカ シュウイチ。」