なのにその男が口にすると、笑い飛ばせないナニカがある。

マリーが菜々の手を引いてファーストフード店から姿を消した後も、四人の高校生は硬直したまま動けずにいた。

確かに恐怖もある。
だが女子高生たちの胸を占めるのは、圧倒的な敗北感。

クラスメートの男子たちが、ようやく悪夢から醒めたように悪態をつき始めるが、もはや負け犬の遠吠えにしか聞こえない。

二人は深く項垂れたまま、ほぞを噛んだ。

あの菜々に負けた。

隣にいる男のレベルも。
女としての魅力も。

本当に汚かった。
本当に惨めだった。
心から軽蔑していた。
心から嫌悪していた。

あの菜々に、負けた…

今、惨めなのは自分たちのほうだ。
シンデレラの継母とその姉たちも、最後に味わったのはこんなキモチだったのだろうか…

って、ハイ、残念。

彼女たちの思いは、全くの検討違いだ。

菜々は幸せなシンデレラなんかじゃない。

今も尚多くのトラウマを抱え、苦しんでいるのだから。
傷をほじくりかえすようなバカ共に、苦しめられているのだから。

菜々が本当に幸せになる日が来たとしても、やはりシンデレラなんかじゃない。

その幸せは王子様に与えられるようなものではなく、苦しみながら、もがきながら、自らの手で掴み取ったものなのだから。