「菜々ぁ。
アンタ、もうオトーサンとは暮らしてないンだね。」


一人の女子高生が、ニンマリ微笑みながら口を開いた。

菜々の華奢な肩がビクリと揺れる。

それを見たもう一人の女子高生も、同じように口角を上げた。


「そりゃそーでショ。
今じゃ別人だもん、ね。」


「私らも心配してたンだよぉ?
あの頃の菜々、ヒドかったもんねぇ?
‥‥‥覚えてるよ、ネ?」


彼女たちの声は、キモチ悪いくらい優しかった。
だがその言葉は、確実に菜々の心を抉った。

青ざめた顔を上げた菜々の瞳に映った彼女たちは、もう悪意を隠そうともせずに嘲笑を口元に漂わせていた。


「ナニ? ナニ?
どゆコト?」


菜々に絡んでいた男子高校生が食いつく。


「菜々、オトーサンに虐待されてたンだヨネー?」


嫌な微笑みを浮かべたまま、女子高生が平然と言い放った。

菜々が再び顔を伏せる。

そして震えだした身体を宥めようと、膝に置いた拳を握りしめてきつく唇を噛みしめた。