でも、泣いたらメイクが崩れるし、
あの人にも心配される。

時間も、もうない。
きっと遅れてしまうだろう。

泣いてる暇はなく、トイレのゴミ箱に
タイツを捨てて駆け出した。


「理人くん!」


待ち合わせ場所に着くと、やっぱり遅れていた。

ヒールで走ったからか、震える膝を押さえようとして、怪我をしていることを思い出した。


「果音?

なにしたんだよ、その怪我!」


理人は驚いた顔をして怪我を見た。


「もっと遅らせてもよかったのに」


「だって、理人くんと、早く遊びたくて」


ばーか、と呆れたように言われた。

手をひかれてついて行くと、薬局だった。


理人君は消毒と絆創膏を買って、近くの公園で手当てをしてくれた。

でもずっと無言。
痛みもあるけど、そのせいではなく、
泣きたくなった。


「ご、ごめんね……」

声が泣きそうに嗚咽をあげていた。

「……映画、間に合わないな」

「ごめんね…」

楽しい気分にはなれなかった。
私のせいだ。


「あ、あの、お昼。

私、店予約してあるから」

気にいってくれればいいな。

それだけが頼みの綱だった。
この空気を壊してください。

「あのさ、その泣くのもウザい」

「……うん」