座敷を出た理由は、手拭いを取りに行くためだけではない。
おそらく亜砂のいた座敷からめぼしい情報は引き出せないと踏んで、他の座敷の様子を見ようと思いついたのである。
廊下をなるべく足音を立てないように進んでいく。
手拭いを片手に注意深く聞き耳を立て、歩き進めた。
暫く歩き回り、長州訛りは聞こえてこないのでそろそろ座敷に戻ろうも引き返した亜砂は、耳に届いた声に足を止めた。
京の言葉でも、江戸の言葉とも違う訛りのある話し方だ。大阪弁でもない。
長州藩士の可能性を感じ、亜砂は声が聞こえた座敷の障子を覗いた。
