場所は変わり、亜砂は既に座敷へ出ていた。
「砂綺と言います。よろしくお願いします。」
砂綺というのは、座敷に上がるにあたってつけてもらった亜砂の偽名だ。
言葉遣いも、霧里が先に説明しておいてくれたのか特に突っ込まれることもなくすんなりと座敷に入ることができた。
酒を継ぎつつ、男たちの会話に聞き耳を立てる。
まだこいつらが新選組の敵かははっきりとわからないが、長州訛りではないので長州藩士ではないのだろう。
「どうした?ぼーっとして。」
考え込んでいた所、いきなり男に肩を触れられ亜砂はびくりと肩を揺らした。
「あっ」
やっちゃった、とでも言いたげな亜砂の声。驚いた拍子に持っていた銚子を落としてしまったのだ。
「も、申し訳ありません!」
内心、やっべ怒られる、と焦りながら謝罪の言葉を述べ銚子を拾い上げた。
幸い、男がそこまで短気ではなかったので特にお咎めはなかったが、亜砂は気を引き締め直し任務に取り組もうと専念した。
「すぐに、片付けますので。」
にっこり愛想笑いを浮かべ手拭いを取りに座敷をでた。
