「柚琴、着いたわよ」
日も長くなりつつある春の夕方。車は、人通りの少ない住宅地に止まった。
見渡す限り家。あたしが新しく引っ越してきた町は、少し外れた団地だった。

「めっちゃ田舎じゃーん…」
「悪くないじゃない。少し向こう行けば通りに出るのよ。」

高校入学間近。お父さんの転勤が決まり、キリがいいこともあって家族で引っ越すことになった。
3つ下の弟は丁度小学校を卒業したばかり。
あたしは引っ越し先の家の近所の高校を受験した。偏差値は中の上くらいだけど、通学が徒歩10分という特別な好条件がついていたから。