ー2004年 3月ー
さかのぼること、9年前。
わたし、時雨めいは泣きじゃくっていた。
それを小さい手で頭を撫でながら、一生懸命泣き止まそうとする、幼なじみの葉月そら。
『なかないで、めい。』
さらさらと揺れる長いキャラメル色の髪の毛。
なんでも分かっちゃう水分の多い不思議な瞳。
ぜんぶ、ぜんぶ大好きだった。
『わたし、そらのお嫁さんになりたいのに…』
物心ついたときには言ってた言葉。
なのに…
運命は残酷で。
『めい、そらくんね、お引っ越しするの。』
ママが泣きながら言ってきた言葉ですべてが溢れ出した。
幼稚園を卒園してそのまま居なくなろうとしたそら。
わたしには、言わないでって。
わたしが、泣くのを見たら連れていっちゃうからって。
そらは、ひみつにしてた。
だけど、ママがうっかり口を滑らせた。
『あのね、めい。
だいじょうぶだよ。
すぐにまた、会えるから。』
ふにゃん、と変わらない笑顔で言う。
『ふえ、そんな、の、むりだもん…』
ぽろぽろと涙をこぼすわたし。
何でわたしは、泣き虫なんだろう。
『めい、やくそくする。
かならず、迎えに行くから。
ぼく、めいのこと、あいしてる。』
そらの、綺麗で澄んだ声。
紡がれた幸せな言葉。
『わあ、もう…
ほんとに泣き虫なんだから。』
そのあと、二人の影はゆっくりと
重なった。
