真っ暗な玄関でぼんやりしていると、お父さんが帰ってきた。すごく疲れた顔をしている。
お帰りと声をかけても聞こえないみたいでバッグを玄関に投げると、出ていってしまった。
両親に僕の姿は見えない。最初の三日間でそう悟った。
ポケットで携帯電話が振動する。電話をとりだそうとした僕の手はなんだか透けているようだ。
「あ、品川!?」
中松のすっとんきょうな声が、右耳から左耳まで突き抜けた。
携帯電話を耳から離して返事する。
「おまえマジでおまえだよな」
「僕は僕だけど」
階段をとんとんあがっていく。
「変な連絡網が回ってきたんだ」
「はぁ、どんな」
「おまえが危篤とか。事故って入院中とか」
部屋に入って電気をつける。黒い窓に映った僕の顔はいつもよりも輪郭がぼやけて見える。
バッグを放り、ベッドに背中から倒れる。
ああ消えるんだ、いなくなるんだこの世から。
「お姫様に必要なのは、家来じゃなくて王子様なんだよね」
「……おい?」
「ごめん。混乱してるんだ」
僕は電話をへし折った。
天井がぐじゃぐじゃに歪んで、暖かいものが頬を伝う。
僕にはもう未来がない。
成りたいものなんて特になかったし、やりたいことも別にほとんどないけど、なんかいろいろと悔しい。
怖い。



