バイバイ南


「僕はそろそろ死ぬから」

南はきょとんとしてから、小枝のようになった手で僕の頬を打った。

「ひどい冗談」

「……このままでいいのか?」

 僕はほっぺをさすって窓を少し開く。暖房がききすぎている。

故おばあさんが生活していたベッドに腰かける。

「死んだら、中松と話せなくなるけど」

弾丸のように枕が飛んできた。

めそめそと泣きだした南に枕を放る。

「泣いてる暇があったら、話せばいいのに」

「どうせ、中松はあたしのことなんか、すぐ忘れるに決まってる」

雨が降り始めたようなすすり泣きを、僕は大切に聴く。

「みんなあたしの余命が少ないから、優しくしてくれるけど。あたしのこと嫌いだった人まで優しくしてくれるけど。あたしがいなくなったら、いい思い出にしたいからだよ」

南はぐずずずと鼻をすすった。

「いい思い出になれるんなら、いいだろ」

「思い出の中のあたしはあたしじゃない。その人にとって都合のいいあたしだもん。自分はこれだけ見舞いに行った、あの子は喜んでくれた、良かった。っていう自己満でしょ」

体をぎゅうっと丸めて、南は固く目を閉じた。



「小さい頃、何度も死にかけたけど。あの時は全然怖くなかったよね」

「んー、怖いもの知らずだったっていうか。あの時は楽しかったなぁ。戻りたいかも」

 南はそりゃあ楽しかっただろう。

傍若無人の小さなお姫さま。

僕は散々な目にあわされたけど、僕もあの頃が一番楽しかったと思う。

だけどあのとき中松はまだいなかった。それでも戻りたいと思ってくれるんだなぁ。

 僕は背伸びして笑った。

「中松と仲直りしなよ」

「ううん。このままで一生後悔させてやる」

「性格悪いな」