怖がりな兎さんとからかう狼さん

「風音!」

 すぐに海翔先輩に引き上げられた。激しく咳き込む私の背をさすってくれた。
 さっきの男性は特に気にもせず、別の出口から出たようでもうその姿はなかった。

「驚かすなよ。後ろで大きな音がしたから振り向いて見たら、お前が落ちているから」
「す、すいません」
「足を滑らせたのか?ドジだな」

 思い出した。中学のときに男子達に目をつけられて、いじめを受けて耐えていたある日、無理矢理プールへ連れて行かれて、押し込まれた。
 息ができなくて、苦しんでいる私を見て、ひたすら彼らは嘲笑っていた。
 どうしてこんなことを今になって思い出してしまったのだろう。
 一つの言葉が思い浮かんだ。フラッシュバックという心理現象。

「風音?」

 私の様子がおかしいことに気づいたのか、声色が少し変わった。
 どうしよう。怖い!
 なんとか落ち着かせようとすると、体が浮いていることに気づき、暴れた。