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(side:ロック)



「後は任せたぞ。ニコル」


すれ違い様に、ニコルに声を掛ければ


「俺には無理だよ、兄さん!」


顔面蒼白になって訴えてくるが、その声に足を止める気持ちの余裕が無かった。


部屋に入る直前にもヴァイスの声が耳に届いたが、振り向く事無く扉を閉める。

二人には悪いと思ったが、今の俺には誰かと会話を交わす余裕も時間も無い。


『百歩譲って、フローラを傍に置くのは認めよう。だが、公の場に姿を見せる事と、あの者との間に子を残す事は認めん』


父上の言葉を思い出すだけで怒りがこみ上げてくる。


「・・・くそっ!!!」


扉横の壁に拳を叩きつければ、パチパチと俺の体から放たれている魔法の力に、部屋中の結界が反応して火花を散らす。


そのまま壁に背を預け、前髪をかき上げた時。


怒りが収まらない俺を冷静にしてくれたのは、ふんわりと香ってきた匂い。

部屋を見渡せば、ベッド脇のテーブルに置かれた物が目に映る。


近付いて手を伸ばせば


「・・・・・」


フローラが作った焼き菓子が乗っていた。

それを一つ摘んで口に入れれば、優しい甘さが口内に広がって、思わず笑みが零れる。


「フローラ・・・」


---そうだ・・・


俺は、こんな事をしている場合じゃない。