直ぐにでも此処から逃げ出したいけれど、指一本すらまともに動かせない状態で、それは不可能だった。
---祈りの儀式から、どれくらい気を失っていたのかな・・・
朦朧とする頭で、ぼんやりと考えていれば
「何だ。まだ、こんな所に居たのか」
男の低い声が、空間に響いた。
それに反応して、振り向いたオリビア様は
「えぇ。少し、この娘と話をしていたの」
妖艶な笑みを男に返す。
コツコツと響き渡る靴音が少しずつ近づいて来る。
「ククッ、娘? 化け物の間違いだろ」
オリビア様の横に立った男は足を止めて、喉の奥で笑う。
さっきよりも血を吸い取られているからなのか、目が霞んで男の顔がよくわからない・・・
でも、何処かで聞いた事があるような声に記憶を辿っていれば
「久しぶりだなぁ? エルフの女」
私を覗き込んできた男の顔が、視界いっぱいに映った。
「・・・あ・・」
霞んでいた映像が鮮明に映し出されて、見覚えのある顔に絶望感が募る。

