王子を見れば、まるで何も聞こえていないかのように、医務室の天井に視線を向け微動だにしない。

毒消しの方法も見つからないまま時間だけが過ぎて、王子の紫色の痣はあっという間に広がっていく。

医師であるルイスは、目の前の王子に手の施しようがなくて唇を噛み締めていた。

誰も何も話さない室内に、コトリと微かに響いた音に視線を上げれば、窓際から顔を覗かせたのは瑠璃色の大きな狼だった。


「なっ!狼!?」


思わず上げた声に、ニコルとルイスも振り向いた。


「何故、城内に狼が・・・」


警戒して構えていたが、一向に襲ってくる気配を見せない狼は、一歩医務室の中に足を踏み入れると、光を纏うと人間の姿に変わった。


「人狼・・?」


ニコルの呟いた声に反応した人狼の男は


「王子は火竜の毒にやられたのであろう?」


そう言ってルイスに近付くと、手に持っていた水色の珠を差し出した。