星月の君




 噂というのは、「顕季が美女を北の方に迎えた」というものである。北の方というのはつまり、妻。

 いいやまて、兄上に妻なんていない。恋人はいるし、もしかしたらというのもあるが、一途らしい兄は北の方なんて、そんな。
 しかもなんだ、美女っていうのは。どこから来たのか。


 兄が宮中へ出仕したら、たまたまそんな話を耳にしたという。私が邸にいるから「あの娘は?」と聞かれるならまだしも、何故北の方なのか。

 どうやら、その原因が私にあるらしい。




「夜にお前の奏でる笛や琵琶の音を聞いた者がいるらしくてな。それだけならばいいのだが、尾鰭がついて、北の方と睦まじく笛を吹いているから、私の笛の音と似ているのだとかいう話も出ている」

「それに美女というのもくっついたと……」




 呆れた。
 どうして人は噂というものに弱いのか。