小雪に「貝を見ても良いですか?」といわれて、持ってきて貰ったのは貝桶である。
私と小雪はしまわれていた貝を取り出し、貝に描かれた絵を眺めて楽しんでいた。昔はよく、私も兄に「貝合わせやりたい!」とせがんだ記憶がある。
貝には様々な絵が描かれているので、中々面白いのだ。
小雪はそれを合わせるのではなく、物語を作るように並べていた。
兄が帰ってきたら一緒に貝合わせでもやってもらおうか、などと思っていたときだ。早歩き、というのだろうか。
足音が聞こえ、やがて止まった。
「若葉!」
「わっ」
私の顔を見たとたん、がっしりと肩を掴み、何故か「誰か来なかったか?」やら「何か届かなかったか?」と聞いてくる。
何をいっているのか。
私にはそれらについて全く心当たりがない。小雪もそうだ。いきなり現れた邸の主をぽかんと、貝を持ったまま見ている。


