星月の君




 邸内ならば、と兄はそんな自由さを許していた。それに少しだけ甘えすぎていた自分もいるのは、わかっている。
 だが――――。



 怖いのだ。



 昔、とある男性から恋文を貰ったことがある。それは邸に仕えている女房たちの厳しい審査、つまり私と釣り合うかなどの目を通ってきたものであった。
 その文に一度会えないか、と書いてあったのだ。私は断った。まだどんな相手なのかよくわからなかったし、その人とは合わない、そんな予感があった。

 無下にも出来ず、会うだけならと私は文を返し、実際に御簾ごしで声を交わしたまではよかった。


 男は、急に御簾をくぐり部屋に入った。
 そして―――――私を襲ってきたのである。



 そんなこと、というかもしれない。
 だが、私は信じていたのだ。話すだけだという文を。そういうことは、ゆっくりと関係を構築してからだと。



 今でも時々、怖くなる。

 あの時は、私はかろうじて逃げる事が出来たからよかったものの、あのままだったらどうなっていたか。