「どうしたの、ぼんやりしちゃって」
「ああ、いや。何でもない」
じい、と見つめてくる敦忠に「何だ」と返す。
そしたら今度はにやり、と口元を綻ばせ、わかった、といったら。
何がわかったのやら。
「君、もしかして気になる人でも出来た?」
ぶほっ。
飲んでいた酒をうっかり吹きそうになった。
……おのれ敦忠。
そう睨んでも相手には通用しないことはわかっている。私は口元を指でぬぐう。
どうして思い悩めばすぐに気になる女がいる、という状況になるのか。
「お前の頭の中は常に春なのか」と言いたくなる。そうに決まっている。
いつも女に文を贈っては、断られたりなんかして落ち込んでうだうだして、次にいくお前とは違うのだ。
ようやくおさまってきた私に「ふうん」という声。


