事務所の隅にある四人掛けの会議テーブルに彼が着くのを確認してから、更衣室に入った。
「履歴書は持ってきた?」
河村さんのよく通る声が、更衣室の中にまで聴こえてくる。彼は何か答えたようだけど、ぼそぼそと篭った超えで何を言ってるのか全く聴き取れない。
履歴書は昨日買いに行ったから、ちゃんと書いてると思うけど。書いているところは見ていないし、彼の経歴は何にも知らない。
「海棠宏樹さん、よろしく。私はここの主任、河村です」
聴こえてくるのは河村さんの声ばかり。彼も答えているみたいだけど、何を言っているのかわからない。
気になってしまって、着替えていた手を止めた。耳をすませてみるけど、やっぱり聴こえない。
イライラする。
聴こえないでしょう!
ぼそぼそ話してないで、はっきり話しなさいよ!
「あれ? あなた……」
河村さんの声のトーンが変わった。
彼の履歴書に何か書いてあったのだろうか、ますます気になって着替えてる場合じゃない。
「はい……」
彼の声が辛うじて聴こえた。
だけど、何に対する『はい』なの?

