「おはようございます」
いつも通り、勢いよく事務所の扉を開けた。
いつもと違うのは、私ひとりじゃなくて彼と一緒だということ。そのためか、声が少し上擦り気味になってしまったこと。
ちょっと恥ずかしかったけど、平静を装う。
もう一つ、いつもと違うこと。
真正面にある机に、座っているはずの河村さんの姿が見えない。いつもならパソコンのモニターの向こうから顔を覗かせて、『おはよう』と優しく返してくれるのに。
ぐるりと見回したけど、事務所の中にはいないようだ。
「あれ? まだ来てないのかな……」
回り込んでパソコンのモニターを覗いてみたら、付けっ放し。
ここにいないとしたら……
河村さんの机の左手にある更衣室を見た。扉の擦りガラスは暗い。
擦りガラスに掛けられたピンク色の薄手のカーテンの隙間からは、微かに薄明かりが覗いている。だけど、これは照明の灯りではなくて、更衣室の窓に映った陽射し。
ということは、ここだ。
河村さんの机の斜め後ろにある倉庫の扉を振り向いた。

