今日は彼が一緒だから、おばちゃんの車を借りて出勤。もちろん、運転手は私。
車の鍵についた手のひらほどの大きさのクマのキーホルダーをぷらぷら揺らして、玄関に座って待っていた。
まだ8時55分。
いつも五分前行動を心掛けているから、たいてい待ちぼうけ。慣れているから苦にはならないのだけど。
すると、彼が二階から下りてきた。海に落ちた時と同じ服を着ている。
「あ……」
と言いかけて口を噤んだ。
スウェットでもよかったのに……と言いそうになったけど、さすがに面接にはスウェットはマズいのかな。
でも、あの黒いジャケットはもっとマズいと思う。
海斗に見せられた写真と重なる。
違うようにも見えるけど、写真の人にも見えなくもない。つまり強盗犯に。
「そのジャケットは着なくてもいいと思う、結構暖かいし、脱いだりするのに邪魔になるでしょう? 置いてきた方がいいよ」
散々考えて、出てきた言葉。
なんて説得力がない。
こんな言い方で納得してくれるのかなあ、と不安な気持ちで彼を見上げる。
しばらく口を尖らせて、目を瞬かせていた彼がふんふんと頷いた。
「そうか、じゃあ脱いでくる」
意外とあっさり返して、二階へと戻っていく。
よかった……
だけど、わからない人。

