丁字路を右折するとすぐに緩やかな下り坂になり、オートキャンプ場の入り口を示す看板が見えてくる。
「夏になると、この辺りに観光客がやって来て、結構賑やかになるのよ」
「へえ……」
ぼそっと答えた彼はキャンプなどに興味は無さそうで、視線は遥か先に煌めく海へと注がれている。
車は看板を通り過ぎて、さらに坂道を下っていく。遠かった海が、あっという間に近づいてくる。
今度は助手席側に海を臨み、運転席側には民家が建ち並んだ景色の中を走り出す。
漁港に停泊した小さな漁船が、波に揺られるたびに日差しをはね返して眩しい。
「ああ……家かと思ったら民宿なんだ」
彼が呟く。
いつの間にこっちを向いたのだ。
一応、私の答えを待っているのか。
「発電所の仕事に来た人たちが泊るんだよ、定検が終わって帰った後に、海水浴に来る人たちが泊まりに来るの」
「あの、おばさんのところも?」
「ううん、おばちゃんは海水浴客は泊めないよ、定検の人だけ。だって、あっちに海水浴場はないから」
彼は感心したように、立ち並ぶ民宿を見送っている。
「東京には、こんな風景ないんでしょう?」
思ったことを口に出していた。
自分でも知らぬ間に。
彼の表情が強張ったように見えるのは、気のせいじゃない。

