もしかすると私は、余計な事を言ってしまったのかもしれない。
いや、言い出したのは彼の方だ。私は全財産だなんて聞きたくなかったし。
全財産って、どういうこと?
もう東京には戻らないから?
やっぱり何か覚悟があったんじゃないかと、気になって仕方ない。
それより不安なのは、今これから。このまま変な空気を連れて、彼と買い物に行かなければいけないのかと思うと気が重い。
エンジンを始動してシートベルトを締めながら、息を吐いて気持ちを落ち着けようとする。
「あのさ……時間があったら、そこの橋を渡ってみたいんだけど、無理?」
ハンドルに手を伸ばそうとして、投げ掛けられた言葉。抑揚はないけど、少し下から問い掛けるような声。
助手席の彼が、訴えるような目で私を見ている。
「え? あ、時間はあるけど……行ってみようか?」
気がついたら答えていた。
どうして答えてしまったんだろう。
何を言い出すのかと思ったのに、何て答えようかと考えているうちに、勝手に言葉が出てしまっていた。
私ってバカだ……
「ありがとう、お願い」
と言って、彼はシートにもたれて窓の外を向いてしまった。

