聴かせて、天辺の青



私の入る余地を与えないほど、彼は丁寧に掃除をしてくれた。悔しいけどお風呂掃除なんか、私よりも丁寧にしてるんじゃないかと思うほど。


あまりにも黙々と壁のタイルを磨いている彼に向かって、


「掃除とか苦手じゃないの?」


思わず口を突いて出てしまった。
ゆっくりと振り向いた彼は、怒ってる風でもなく不思議そうな顔をしている。


「べつに、嫌いじゃないけど……むしろ好きだけど?」


私が『苦手』と言ったのを『嫌い』と聞き間違えたのだろうか。それとも嫌味に聞こえたから、わざと『嫌い』に言い換えた?


「そう、掃除好きなんだ……」


最後に『意外』なんて付け加えてしまいそうになって、慌てて口を噤んだ。
それなのに、


「意外だと思った?」


と、すかさず彼が聞き返す。


何なの?
コイツ、人の心が読めるの?


気持ち悪い……と思いながら、何か答えなくてはと言葉を必死に探した。それなのに思い浮かんでくるのは、とても言えないような言葉ばかりで。


焦りは禁物……って、それも違う。


変な空気と沈黙が漂う中、彼は私の返事なんて気にすることもない様子。さっさと掃除を済ませてしまった。


これなら明日から任せても、私が仕上げをしなくても大丈夫そうだ。