階段を上がっていく私の一歩後ろから、彼がついてくる。
さて、何から教えよう。
正直言って、人に教えるのは苦手だ。
OLの頃も後輩に仕事を教える時、本当に困った。
自分ではちゃんと理解していてこなすことができることを、言葉にして相手に伝えるとなると頭の中がごちゃごちゃしてきて……無理。
とりあえず、彼の部屋へと向かう。
「入るよ? いい?」
彼の答えを聞く前に、ドアノブに手を掛けた。
「あ……」
彼の発した声とともに前につんのめって、危うくドアにぶつかりそうになる。
鍵を掛けてたらしい。
和田さんたちは鍵なんか掛けないのに……と心の中でぶつぶつしてるうちに、彼が鍵を開けてドアを開け放った。
さっと風が通り抜ける。
レースのカーテンがふわりと浮かんで、潮の香りがぷんとした。
部屋の中がさっぱりして見えるのは、部屋の隅に布団が丁寧に畳んで重ねられているから。それとも和田さんたちよりも、彼の荷物が少ないからだろうか。
遠慮なく部屋に入って、畳まれた布団の前に立って振り向いた。
「せっかく綺麗に畳んでくれてるんだけど、まずはこの布団を窓から干すの」
聴こえているのかいないのか、彼はまだドアの傍に立ったまま。

