聴かせて、天辺の青




おばちゃんが話してくれたのは、まったく想定外なことだった。


「海棠さんね、行く当てが見つかるまでしばらく住み込みで働かせてほしいって」


何て答えたらいいのかわからなくて、私は目を見開いたまま、ぽかんと口を開けてしまっていた。


情けない顔をしていると気づいたのは、しばらくしておばちゃんが口を開いたから。


「こんな趣味でやってるみたいな小さな宿だから、ちゃんとしたお給料は出せないよって言ったんだけど、それでもいいって言うの。行くところがないのに断るのもかわいそうだからね」


と、おばちゃんは悲しそうに目を伏せた。完全に彼に同情している。


いけない、彼は強盗未遂の犯人かもしれないのに。


「でも、おばちゃん? あの人の言うことを、簡単に信じても大丈夫なの? 変な人だったら、どうする? たとえば、強盗犯だとか……」


今度は、おばちゃんが目を丸くした。


「強盗犯? 海棠さんが? あんなひょろっとした人が強盗犯なんて全然怖くないわよ、それに彼は、そんなことする人じゃないと思うわ」


どうして彼の肩を持つんだろう。
彼が詐欺師なら、真っ先に騙されてしまってるだろう。