「何も気にすることないって、ソイツの熱が下がったなら心配することない。だいたい、誤解されるような行動をしてたソイツが悪いと、俺は思うけどな」
海斗はさらりと言い放った。
バイト先での昼休み、売店の裏側の海に面した柵にもたれ掛かって、私は彼のことを話した。正確に言うと、白状させられたのだけれど。
気にしないでいるつもりが、思いきり顔に出ていたらしい。顔だけではなく、些細なミスを連発してしまったから。
海斗が気づいて、昨日からのことを洗いざらい白状させられた。
だけど話しただけで、胸で燻っていたものが消えて楽になってくる。沈みかけていた気持ちが浮上してきたら、また腹が立ってきた。
「だよね、誤解を招くようなことをしてたアイツが悪い」
私の発した強気な言葉に、海斗が振り向いてにやりと笑う。そして得意気な顔で目を細めた。
「そう、『李下に冠を正さず』ってやつだ」
「おお、海斗からそんな言葉が出た、意外かも!」
「こら、バカにしてるのか? っていうか、お前は知らなかっただろ?」
大袈裟に驚いてみせたら、海斗は口を尖らせてはにかんだ。
「知ってるよ、当たり前だよ。海斗こそバカにしてんの?」
こんなくだらないことで笑い合う私たちは、高校生の頃に戻った気分。

