聴かせて、天辺の青



昨日の朝、海を見ていた彼の姿が蘇る。


『海』に拘っていたのは、やはり死に場所を求めてたから? と否定的な考えばかり浮かんでしまう。


しばらく紙を眺めていたけど、『海』以外の文字は読み取れず。再び紙を折りたたんで、元の場所に戻そうとして見下ろした。


そこには携帯電話。


何気に伸ばした手が携帯電話に触れた瞬間、背後でごそごそと布団の動く音。手を伸ばしたまま、固まって動けなくなった。


触れただけ、
まだ何も見ていないし、
見ようと思ってたわけじゃない。
と繰り返すのは言い訳。


しばらく固まったまま待ってみたけど、彼の声は聴こえない。


恐る恐る振り向いた。
彼の顔が、こちらを向いている。


でも、目は閉じたまま穏やかな寝顔。ふうと彼が大きく息を吐いたのにつられて、私も小さく息を吐いた。


やがて胸のざわめきが治まってきた頃、隣りの部屋から物音が聴こえた。
和田さんが起きたのだろう。


握り締めていた紙屑を元の場所に置いたら、『海』の文字が脳裏に浮かぶ。考えてもわからないんだからと頭を振った。


さて、急いで1階に下りよう。
和田さんたちがすぐに朝食を摂ることが出来るように、おばちゃんの準備を手伝わなければ。