聴かせて、天辺の青


防波堤の先端に立ち、空を見上げた。



朝の光に飲み込まれていく星の弱々しい光を追いかけながら、うんと両手を広げた。かかとを浮かせて伸び上がったまま目を閉じると、穏やかな潮風が髪を梳かしてくれる。



一筋向こうの国道を走る車の音が次第に遠のいて、自分が別の世界へいるような感覚になってくる。



このまま意識をどこかに持ち去ってくれればいいのに。



今にも手放そうとした意識を引き止めるように、背後からもたれかかってくる衝撃。あまりにも突然のことに訳がわからず体が前のめりになる。今にも地面から離れそうになる足を踏ん張ったけれど、振り向いてはいけない気がした。



だって、この世のモノでなかったら……



もう日が昇ろうしている時間に、そんなモノはあり得ないのかも知れないけれど怖い。
『この世で一番怖いモンは人間じゃ!』
いつだったか和田さんの言った言葉が蘇る。



両肩にのし掛かったモノへとゆっくり視線を落とすと、黒い塊の先から肌色が覗いている。



「瑞香、ごめん」



気づいたのと同時に私の名を呼ぶ声。
閉じ込めていた気持ちが殻を破って、一気に溢れ出す。