聴かせて、天辺の青


潮風に紛れた沈丁花の香り。
ちょうど一年前の今日も、この道で同じ景色を見ながら同じ匂いを感じた。



夜が明ける寸前のぴんと張り詰めた空気の中、ひんやりとした風が頬を撫でる。研ぎ澄まされているけれど優しさを含んだ風を感じながら、緩やかな下り坂を自転車で滑り降りていく。



深い闇が少しずつ解けて露わになる景色に、吐く息の白さと信号機の赤い点滅が浮かび上がってきた。薄っすらと白み始めた空と黒い海原へと目を向けると、疎らに停泊した渡船と港から突き出した防波堤。



人影なんて見えるわけない。



こんなに冷えた朝、釣り人さえいない。



そろりとペダルから足を離して、惰性に任せて自転車を転がす。港に沿った道路を逸れて防波堤の先端を目指して。



ハンドルを握る手に力が入る。
あの日とは違う胸の苦しさが、閉じ込めようとしていた景色を思い出させる。



もう期待なんてしない。
裏切られるだけなら、叶わないのなら、期待なんてしない方がいい。



言い聞かせて自転車を停め、防波堤の先へと歩き出した。



東の空には白瀬大橋の街灯が点々と並んで輝いている。まるで明けの明星のように。白瀬大橋に続く小島半島の黒い影が、白さを増した空に浮かび上がって見える。



まもなく夜が明ける。