「もういいってば、戻れないとしても彼は向こうで夢を取り戻したんだから、それでいいじゃない」
気持ちが揺らいだりしないように、自分自身へと言い聞かせた。
無理をして戻らなくてもいい。あちらでチャンスがあるなら、可能性があるなら、賭けてみたらいいじゃない。
「瑞香はバカだなあ……おばちゃんと一緒に東京に行けばよかったのに」
先週からおばちゃんは東京の英司の家に行ってる。今月初め、英司と葵さんには元気な女の子が生まれたそうだ。
昨日電話をかけてきたおばちゃんは年明けに帰るつもりだと言ってたけど、思ってた以上に居心地が良いらしいから長居しそうな予感。葵さんもおばちゃんとすぐに仲良くなったらしいからなおさら。
「バカでいいよ、私まで帰ってこなくなったら、海斗が寂しがるから居てあげてるんでしょう?」
「は? 寂しいわけないだろ、アイツに会えたならもう帰ってこなくてもいいよ」
ふんっと鼻で笑って、海斗が缶コーヒーを一気に飲み干した。空になった缶をドリンクホルダーに置いて、アクセルを踏み込む。
やがて川の向こうに大木に似た、高くそびえるタワーが見えてきた。タワーは大きな滑り台の天辺へと登れるエレベーターになっている。公園には他にも滑り台があり、気候が良い時期には多くの人で賑やかになる。
それにここは、春に夜桜の下で海棠さんの歓迎会を開いた場所でもある。

