「帰ってこないよ」
きっぱりと言い切ったのは、自分の気持ちにケジメをつけるため。海斗に気を遣わせたくないというのも理由のひとつ。
すると海斗が私に対抗するように、腹が立つほど大きな息を吐く。
「帰ってくる、アイツの送別会しなかったし、ロッカーもそのままにしてあるんだからな」
「そんなの、海斗が勝手に思い込んでるだけでしょう? もう何ヶ月経つと思ってんのよ」
呆れ返ったふりをしながらも内心驚いていた。男子更衣室なんて入ることがないから知らなかったけど、まだ彼のロッカーを置いてるなんて。
バカみたい、と付け加えたかったけれど言葉が出てこない。
「アイツは恩師の見舞いに行っただけだろ? ホントは帰りたいけど、今は帰れない事情があるんだよ」
まくし立てるような海斗の声が、陰っていた私の心に一瞬だけ小さな光を灯した。
あっという間に消えた光は余韻を残して、私自身に問いかける。
彼に、確かめなくていいの?
もしかすると彼には、戻れない理由があるのかもしれない。
海斗の言う通り、彼が東京に帰った理由は葛原さんを見舞うため。彼だって葛原さんの顔を見たら、すぐに戻ってくるつもりだったのだから。

