本当は泣きたくないのに。
もう顔を上げていられないくらい、涙でくしゃくしゃになっていた。
バッグから取り出したハンカチに顔を埋めながら、彼の歌声に耳を傾ける。時々ハンカチの隙間から画面を確かめて。
だけど青一色に染まった画面は何も変わらないまま。心地よいピアノの音色と彼の歌声が体の奥深くへと染みていく。
染みていくほどに体が熱くなって、熱を冷ますかのように涙が溢れ出す。
彼の歌声が、ピアノの音が消えていく。
もう少し、聴いていたかったのに。
引き止めたい思いが、いっそう涙の勢いを加速させようとする。堪えようとしてハンカチを強く握り締めたら肩が震えた。
ふわっと頭に触れたのは麻美の手。
「瑞香、ごめんね」
優しく撫でてくれる手の温もりが、私の傷を癒そうとしてくれているのがわかる。
だけど悪いのは私、麻美にも誰にも何も話さなかった私が悪い。いきなり泣いたりしたら、麻美が驚くのも当たり前。
「麻美は悪くない、言わなかった私が悪いから……ごめん」
「察してあげられなくてごめんね、もう我慢しなくてもいいよ、泣きたいだけ泣いて」
いつの間にか麻美の手に、彼の手の感触を思い出してしまっていた。

