聴かせて、天辺の青


「この前ね、たまたま動画サイトで見つけたんだけどヒロキが歌ってたの、初めて観たよ、ヒロキが歌ってるところなんて」



麻美は頬杖をついて、うっとりした目で私に力説。舞い上がりそうな表情に反して、強い口調に圧倒される。



「彼が歌ってたの?」

「そうだよ、ヒロキがひとりで歌ってるのなんて、ライブでも観たことなかったよ、サポートだったしね」



海棠さんは、ブルーインブルーのサポートメンバーだった。歌うのは専らメインのふたりだから、彼がひとりで歌うことなんてない。
だからこそ、麻美の目に留まったのかもしれない。



「海棠さんが歌ってるところなんて見たことないよ、英司のお姉さんの子供さんにピアノを教えてるのは見たことあるけど」

「そっか、コッチに居る時は歌ったりしなかったんだ……東京に帰ってから、新しい道を見つけたのかもね」

「うん、新たな夢を取り戻したんだろうね」



知らない間に、自分でも言うつもりなんてなかった言葉が口から溢れた。
『夢を取り戻した』とは、里緒さんが言ったのと同じ言葉。無意識のうちに、自分に言い聞かせるつもりだったのかもしれない。



「瑞香も観てよ、すごくいい歌だから」



と言いながら、麻美がバッグからスマホを取り出した。ちらりと周りの席を見渡して、スマホの画面上に素早く指を滑らせて、私の前に差し出す。