聴かせて、天辺の青


彼女でもない人が、どうして? 
海棠さんを探して、こんな所まで来たの? 
ここに居るなんて、どうしてわかったの? 



「彼女は……里緒さんはどうしてここに来たのかな?」



ほとんど無意識のうちに出た言葉だったけれど幸い口調だけは穏やかで、彼を不快な気持ちにさせてしまうことはないだろう。ひとまず安心しながらも、彼の答えが気になってしまう。



「どうやって探したのかはわからないけど、彼女は俺に伝えたいことがあったんだよ」

「何を伝えたかったの?」

「俺が上京して間もない頃に支えてくれていたのが彼女の父、葛原さんなんだ。何かある度に俺を助けてくれた……父親のような人だよ」

「里緒さんはお父さんに頼まれて、探しに来たんだね」

「うん、俺が東京を離れたことを知って、葛原さんは探してくれていたらしい。田舎には絶対に帰らないとわかっていたからね」



『田舎には絶対に帰らない』と聞いた途端に嫌な予感がした。



海棠さんにとって葛原さんは父親のような存在、葛原さんにとって海棠さんが息子ならいきなり姿を消してしまったら心配するのは当然。
その経緯を知ったならなおさらに。
きっと必死になって探していたはず。



だけど葛原さんは、海棠さんを探し当ててどうしたいと思っているのだろう。



浮かんだ嫌な予感はみるみる膨らんでいく。
考えるほどに怖くて堪らなくなる。