聴かせて、天辺の青


和田さんだと思ったのに。



「瑞香、待って」



私の名を呼んだのは海棠さんだった。



語尾になるほど早口になる声には僅かな緊張感。呼び止めてくれたことが本当は嬉しいのに、振り向くことができない。
だからと言って無視して進み出すこともできなくて、自転車に寄りかかるようにハンドルを握り締めた。



いつの間にか速くなった鼓動が、近づいてくる彼の足音と重なる。今すぐに逃げ出してしまおうかと思うのに足が動かない。



「瑞香、ごめん」



彼の声が頰を掠めるのと同時に、後ろから抱き締められた。体を引き寄せられて、ハンドルから手を離してしまいそうになる。



「どうして謝るの?」



口を開いたら涙が溢れた。
とっさに唇を噛んで堪えようとするのに、一度溢れ出してしまった涙は止めどなく頬を流れ落ちていく。
止めたいのに止められない。



海棠さんの手が濡れた頬に触れる。涙に触れられたくないのに避けられないまま、頬を拭った手は輪郭をなぞりながら頬を包み込む。
くいっと顎を引き寄せて、海棠さんが頬を擦り寄せた。



「俺が悪い……許してほしい」



絞り出すような声が胸を締め付ける。
余計に涙が溢れ出して、止まりそうにない。



どうして、謝るの? 
謝らないでいいから、本当のことを教えて。