「瑞香ちゃん、何かあったんか?」
ふいに眉をしかめた和田さんの顔が飛び込んだ。思わず後退りしそうになる足を踏ん張って首を振る。
「何にもないよ、和田さん達が居なくなると寂しいなあ……って思って」
「そうやろ? ワシも寂しいねんで」
涙を拭う仕草をしながら和田さんが笑う。
私も一緒になって笑ったけれど、次々と溢れ出てくる不安は抑えられなくなってくる。不自然な笑顔になってはいないだろうかと気づいた時には、肩に和田さんの手が触れていた。
「何かあったら言いや、ワシでも聞くぐらいならできるからな、溜めてたらアカンねんで」
とんとんと優しく叩いてくれるだけで、体を強張らせていた不安が解けるように思える。目頭が熱を持ってくるのを堪えるように、うんと口角を上げた。
「うん、ありがとう」
「おう、また明日な、おやすみ」
もう一度肩を叩いて、和田さんが玄関へと入っていく。扉が閉まるのを見届けたら寂しさが押し寄せて、再び目頭が熱くなる。
ふうっと息を吐いて熱を逃がそうとするのに、胸まで熱くなってきた。
早くここから退散しなければ……
自転車のハンドルへと手を伸ばした背後から、扉が開く音が聴こえた。

