聴かせて、天辺の青


ふいに裏口の扉が開いて、海斗が顔を上げた。



「藤本くん、瑞香ちゃん……、どうしたの?」



私たちの名を呼んで、すぐに河村さんは目を逸らした。驚いた表情を隠すように不自然に周りを窺うような仕草が、必死で私たちの注意を逸らそうとしている。
だけど、確かに河村さんの目は潤んでいた。



すかさず海斗が立ち上がり、河村さんの元へと歩み寄る。



「彼女は帰ったわ、ごめんね、もう平気よ」



と言って、河村さんは笑ってみせる。大股で近づいてくる海斗を制止したいのだろうけど、声が震えているのを隠すことはできなかった。



「平気なんて言うな」



海斗の広げた腕の中に、河村さんが引き寄せられていく。恥ずかしそうに顔を伏せる河村さんが「ごめんなさい」と小さく溢したのを聞きながら、私は店へと戻った。



その後、海棠さんも私も平常を保って仕事を続けた。
河村さんと彼女との間に何があったのかはわからないまま。もちろん河村さんも海斗も何にも話そうとはしない。聞くに聞けない状況にもどかしさを感じながらも、無事に一日の仕事を終えた。