「片付いたのか? お客さんは?」
「うん、片付けた。お客さんも当分来ないと思う」
「そうか……、でも彼ひとりなんだろ? 早く戻ってやれよ、急にお客さんが来たらどうするんだよ」
「大丈夫だよ、たぶん」
「たぶんじゃないだろ……」
ふんっと鼻息を荒げて、海斗はコーヒーを呷った。私がここに来たことが相当気に入らないらしい。『どうして来たんだ?』と今にも言い出しそうな視線を私へと注いでいる。
穏やかな風が海原を撫でつけるたびに日差しが波に反射して、眩しさに目を細めた。
海斗が缶コーヒーを口へと運ぶ。海斗の喉が鳴る音が聴こえたあと、コーヒーの香りが風に流されていく。
「河村さん、大丈夫かな……見に行かなくていいの?」
「ああ、大丈夫だ。きっと」
「旦那さんの浮気相手なんでしょう? どうして今ごろ……何をしに来たんだろう」
「何だろうな、俺にわかるわけないだろ? でもな、悪いことしに来たんじゃないとは思うんだ」
「どうして? そんなことわからないじゃない」
「なんとなく……、俺の勘だよ」
くすっと海斗は笑うけど、不安は隠しきれてない。むしろ『大丈夫だ』と自分に言い聞かせているように思える。
私も今は祈りたい。
決して何事も起こらないように。

