最悪の状況を覚悟した私の目に映ったのは河村さん。
とりあえず現れたのが海棠さんではなかったことに、ほっとしたのはつかの間。
「あっ……」と、彼女が声を上げた。
彼女の視線はまっすぐに河村さんを捉えている。きゅっと口を結んだ彼女の表情は、まるで勝利を確信したかのように凛として。
海斗の表情が悔しげに強張った瞬間、ゆっくりと彼女は歩き出す。
河村さんは海斗の表情から何かを察したらしい。見開いた目は落ち着きを取り戻して彼女を待ち構える。
距離を保って見守っていた私は、ゆっくりと海斗の傍へと向かう。その間に彼女は河村さんの元へとたどり着いた。
「はじめまして、突然お伺いしてすみません」
と言って、彼女は頭を下げた。
挨拶というよりも、まるで謝罪するかのような深い角度に違和感を感じてしまう。
「やめて、顔を上げて……」
河村さんが呼びかけてもなお、彼女は頭を下げたまま顔を上げようとはしない。彼女の腕に触れた河村さんは、困った表情に僅かな苛立ちを覗かせている。
「すみません」と繰り返す彼女の声が涙混じりに変わっていく。鼻をすすりながら小刻みに肩を震わせる彼女は、店に入ってきた時よりもずっと小さくて弱々しく見えた。

