聴かせて、天辺の青


店内に入ってきた彼女が、海斗の声に振り向いた。
表情までは見えないけれど、年は私よりも明らかに若そう。華奢な肩のラインに沿ったさらさらした長い髪は落ち着きのある深いブラウン。



するすると声に引き寄せられるように、彼女は海斗の元へと歩いていく。紺色のジャケットの裾から、ふわりと風をまとったスカートを揺らして。



海斗と向き合った彼女が口を開いた。
陳列棚の陰からこっそりと窺う私まで声は届かない。



聴こえないから余計に気になってしまって、陳列棚の陰を移動することに。
彼女の視界に映らないように気をつけながら、ゆっくりと陳列棚に沿って近づいていく。



「……ここで働いているって聞いたんです」



ふいに語気を強めた彼女の声が私の足を止めた。嫌な予感に胸を締め付けられて、進み出すことができない。



「何かの間違いだろう、ここには居ない」



きっぱりと言い切った海斗の声には力強さと落ち着きが感じられる。だけど表情は想像していた以上に強張っていて、不安が抑えきれずにこみ上げてくる。



やっぱり目的は彼だったんだ。
確信するのと同時に裏口のドアが開いた。