英司と佐倉さんが上りホームへと降りていくのを見送って、私たちは反対側の下りホームへと向かった。
固く握り締めた手の力強さが、私の歩みをしっかりと支えてくれている。
もう、大丈夫。
私は自分の足で歩くことができる。ふらついたり迷ったりしないで、ちゃんと進むべき方へ向かって。この手とともに。
ホームへと降り立つと間もなく、上りホームに列車が滑り込んできた。英司と佐倉さんの姿を跡形もなく隠して。二人がどこに居るのかもわからないまま、列車の窓を眺めながらホームを歩く。
「瑞香、あそこ」
と言って、海棠さんが手を引いた。
停まった列車の窓から、英司が手を振ってる。英司の隣には佐倉さん。目が合うと、にこりと控えめな笑顔で会釈する。
私も大きく手を振った。もちろん笑顔で。
二人はお似合いだと思う。
私の知らないところで、いろんな苦労や物語があったのだと思う。今すべて知ろうとは思わないし、追及するつもりもない。
これから少しずつ知ることができたらいいと思う。二人が田舎に帰ってきた時に、小出しに話してくれた方が楽しみは大きいのだから。
私だって、そのつもり。英司のいない間のこと、海棠さんとのことを英司か帰ってくるたびに少しずつ話そう。
幸せの波に心地よく漂いながら、時おり見知らぬ漂流物に出会うように、互いの知らないことを話すように。
お互いに今が幸せで、これからもずっと幸せでいられますように。
今はそれだけを願ってる。

