「少しだけな、宿の仕事も手伝ってくれて、いろいろと助けてくれてるみたいで、ありがとう」
「俺の方こそ、おばさんには本当にお世話になってます。まだしばらくお世話になるつもりなので、よろしくお願いします」
固く握手を交わす二人を見ているうちに、胸で引っかかっていたものが消えていく。だけど同時に、英司がさらに遠い存在になるように感じられてしまう。
「瑞香、変な顔するなよ、ここは泣くところじゃないだろ?」
英司に言われて初めて視界が滲んでいることに気づいた。今さら拭ってみても手遅れだとわかっているのに、指先でなぞって笑ってみせる。
「泣いてないよ、ゴミが入っただけ」
「はいはい、わかったよ。また近いうちに帰ってくるから、その時にゆっくり話そうな」
ぽんっと頭に触れた大きな手は懐かしくて温かい。遠い思い出の中で感じたのと同じ、優しい匂いがする。
英司が腕時計を確かめた。
ふと振り向いて、佐倉さんを気遣うそぶりを見せて。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「英司、ありがとう。無理しないでね」
「瑞香も。海棠さん、母と瑞香をよろしくお願いします」
英司が頭を下げて、隣にいる佐倉さんも後に続いて礼をする。顔を上げると、佐倉さんの腰に添えられた英司の手に目が留まった。
同時に、私の肩に触れたのは海棠さんの手。
「もちろんです、安心してください」
包み込むような柔らかな声が、手のひらから体の奥へと沁みてきた。

